日本財団助成事業「聴覚障害に関わる支援人材育成を目的とした遠隔手話教育システムの構築」
手話サポーター養成プロジェクト室

人材育成

聴覚特別支援学校で求められる手話のスキルとは

 聴覚特別支援学校(聾学校)では、教員の手話スキル不足が深刻な課題となっており、国会でもしばしば取り上げられています。しかし、解決が難しい問題です。
(衆議院予算委員会第四分科会2020年2月25日)宮路拓馬議員
(参議院決算委員会2020年4月5日)今井絵理子議員

 この問題の解決が難しいのは、第一に、聴覚特別支援学校教員の免許保有率が依然として低いまま(6割以下)にとどまっていることに加え、聴覚障害領域の免許取得のための単位要件においても、手話のスキルを向上させるための授業は設けられていないことにあります。
しかしながら、そうした現状に甘んじることなく、私たちは、本来、聞こえない子どもが受けられるべき教育権を保障するべく、教員に求められる手話スキルを習得させるべきだと考えました。そのスキルとは、どのようなものでしょうか。
 例えば幼稚部で手話による絵本の読み聞かせを行うためには、単に絵本の文章を手話で表すだけでは聞こえない幼児には伝わりません。聾児の発達年齢に即した語の選択、目の前に映像が飛び込んでくるような手話表現などが必要になるでしょう。小学部で分数を手話で教えるためには、目の前のサインスペースの配置をうまく活用するなどして、約分や通分のカラクリが伝わるように表現をする必要があるかもしれません。高等部ではどうでしょうか。物理化学や地理歴史、古文、解析学といった、抽象概念を伝えていくには、いわゆる学術手話通訳的なスキルが必要になってくるともいえます。
 そしてなにより、保有聴力の軽重や発音発語の有無に関わらず、全ての聴覚障害児にとって、書き言葉の日本語の習得は例外なく重要です。聾学校の在籍児童全てが日本手話を第一言語としているかどうかはさておき、両親が聾者で日本手話を第一言語とするお子さんもいれば、知的障害などの他の障害を併せ持ち、手話でのやりとりならばコミュニケーションが成立するお子さんもいて、さまざまなお子さんが集団活動を営む場が聴覚特別支援学校です。子どもたち同士の中で豊かに広がっていく手話を有効に活用して、それを書記日本語指導に活かしていくためには、教員側には日本手話−日本語の二言語間の違いを理解し、翻訳・通訳するスキルが必要になるのではないでしょうか。すなわち、日本語指導のためにこそ、手話通訳のスキルが必要であると私たちは考えました。
 このように考えると、聴覚特別支援学校の教員には、おそらく一般に想像されるよりもはるかに高い手話のスキルが必要になるのです。そしてこのスキルは、学校教員として日々の授業に追われる中では習得が困難であり、養成課程在学中に身につけるのが最も効率が良いと考えています。


カリキュラムの工夫 −すべての授業の有機的統合−

  聴覚特別支援学校教員の養成にあたり、相当に高い手話のスキルが必要だとして、その授業を聴覚障害領域の専門科目に押し込むのは、現実問題としてかなり無理があります。そこで、最終ゴールを4年次に履修する特別支援学校教員として必要な手話のスキルに関する授業(聴覚障害教育演習C、D、E)については聴覚障害領域の専門科目に設定し、そのために必要な手話および手話通訳のスキル習得は、専門外に設定しました。すなわち、1年次の手話習得の授業は教養教育の科目に、2〜3年次の手話通訳技術習得の授業は共同教育学部の選択科目とし、学生の履修に際して負荷が分散されるように設計しました。
 その上で、それぞれの授業が個々に独立しているのではなく、有機的に影響し合うように内容面でも工夫を図っています。
 例えば、「日本手話と日本語の違いを学ぶ」は、厚生労働省の手話通訳者養成カリキュラムに沿わせる必要はありますが、そこで使用する教材は、教育場面を意識的に多く用いています。そしてまさに授業題目の通り、日本手話と日本語を、言語間の違いやその背景にある文化の違いなどを総合的に判断して翻訳・通訳することを学びます。この翻訳・通訳作業のためには、聴覚障害者の認知特性、概念形成などを理解しておくことも重要になります。そのことを学ぶ「聴覚障害心理特論」の授業をプロジェクトの関連講義と位置づけ、プロジェクトスタッフが授業を担当することで、両者の授業の既習事項を踏まえて学びを深化させることができます。
 また、聾重複障害児のコミュニケーション支援についての内容を、3年次の「聴覚障害指導法特論」に包含させることで、「日本手話と日本語の違いを学ぶⅠ、Ⅱ」と「聴覚障害心理特論」の内容を踏まえて、手話のスキルや心理発達等の知識を応用させる形で、聾重複障害児のコミュニケーション支援について、実技を含めた実践的な学びができます。
 さらに、「群馬県盲ろう者向け通訳・介助員」の資格取得が可能となる、「聴覚障害教育演習D、E」については、厚生労働省カリキュラムに対応させつつも、十分にコミュニケーションができる素地を身に着けてから受講するべきと考え、4年次に設定しました。これにより、手話通訳技術を習得し、かつ、聴覚障害児の心理、指導法(聾重複障害児のコミュニケーション支援を含む)を学んだ上で、より個別性の高い支援が必要な盲ろう者への支援を実践的に学ぶことができます。特に、手話ができることで、ゲスト講師の盲ろう者の方々と触手話でやりとりすることができます。その上で、単に厚労省カリキュラムに合わせるだけでなく、特別支援学校教員のための授業であることを踏まえ、教育に関する教材を意識的に取り入れるなどの工夫をしています。加えて、関連講義としての「盲ろう教育総論」も4年次に設定しており、ここでは先天性盲ろう児への支援を中心に学びを深めます。これらが有機的に繋がり、学びが深化することで、成人盲ろう者支援の資格取得を含めつつも、特別支援学校に在籍しているであろう先天性盲ろう児に教員として関わるための素養を習得して卒業することができると考えています。

*2020年度から学年進行で共同教育学部のカリキュラムに移行しており、移行期の現在は旧カリキュラムと新カリキュラムの授業名が混在しています。この文章は、新カリキュラムに対応させて記してあります。


専門職向けの研修について

 第2期から新たに着手する事業として、聴覚障害児者と関わる専門職(特別支援学校教員、社会福祉士、公認心理師、言語聴覚士など)向けの研修を計画しています。
 特別支援学校教員向けの研修については、本学の授業を公開講座や科目等履修としてオンライン開講することで、①単発の履修は自己研鑽に、②単位取得可能な履修の場合は特別支援学校教員免許取得に、③手話習得や手話通訳スキル習得の授業を校内研修に、といった形で役立ててもらえたらと考えています。
 また、その他の専門職については、それぞれの職種に応じて、「最低限知っておいてほしい聴覚障害の知識」や「これだけは覚えて使ってほしい手話」、あるいは「聴覚障害者と関わる際の基本的なマナー、コミュニケーションの方法」といった内容について、調査研究を進めながら、講座の内容について開発研究を進めていきたいと考えています。