群馬大学 手話サポーター養成プロジェクト室

手話・手話通訳教育Education

手話・手話通訳教育の特色

【特色1】第二言語として学ぶ日本手話

日本手話は、日本語とは異なる独自の言語構造を持つ自然言語です。幼少時から手話でコミュニケーションをとる環境で育ってきた聞こえない子どもや大人の中には、日本手話を母語/第一言語とする人たちがいます。生まれつき聞こえない人は、たとえ補聴器や人工内耳で音を補ったとしても、聞こえる人たちのように自然に日本語の読み書きを習得することが困難です。

人間と動物の違いは、思考する言語を有していることにあります。人間らしく生きるためには、自由に繰ることができる言語が必要不可欠です。群馬大学では、日本手話の言語マイノリティである聞こえない人々の学び、労働、社会生活等を支える人材を養成しています。日本語を母語/第一言語とする人にとって、日本手話学習は、第二言語(※)として新しい言語を学ぶことに他なりません。決してたやすい道のりではありませんが、あなたの使用言語に日本手話を加えることにチャレンジしてみませんか。

※第二言語とはその人が母語/第一言語を習得した後に、改めて学習し使用することができるようになった母語/第一言語以外の言語を言います。

【特色2】音声言語の第二言語習得理論や外国語教授法を取り入れた指導

通常、日本に生まれて、日本語の環境で育ってきた人は、日本語を「読む」「書く」「聞く」「話す」ことに全く苦労しません。第一言語は、生まれつき障害があるなど、特別な場合を除いて、ほぼすべての人が流暢な母語話者となります。ところが、第二言語となると、それなりに学習時間をとっていても、なかなか母語話者並みにはなりません。これは手話言語も同様です。

私たちは、週数時間程度の学習で、日本手話を流暢に使えるようになるにはどのような指導や学習が効果的なのか問い続けています。第二言語習得研究は、言語学、心理学、脳科学、教育学など多くの専門領域が関わる学際的分野ですが、近年は、第二言語のインプットからアウトプットに至るまでの言語処理の観点にたって学習メカニズムを捉え、教育的介入の方法をいろいろ操作することで言語学習のプロセスにどのような影響をもたらすのか検証しようとする認知的アプローチが注目されています。言語学習では、目標言語(※)のインプット/アウトプットにおいて、特定の言語形式、誤り、習得不十分な知識などに注意を向ける「気づき」が大切です。学習者が、メタ言語知識の定着につながる「気づき」を得て、その蓄積の中で学習が活性化され、最終的には、言語規則を強く意識することなく、流暢に目標言語を運用できるようにするため、第二言語習得理論に基づいた様々な外国語教授法が提案されています。

ところが、第二言語としての手話言語習得研究は、世界的に見てもごくわずかしか行われていません。そのため、音声言語における第二言語習得理論や外国語教授法を応用しつつ、視覚-身体動作モダリティを使用するという手話言語の特性に合った指導法を実践的に試みています。

※目標言語とは、学習しようとする言語のことを指します。

【特色3】音声言語の通訳理論を取り入れた指導

群馬大学では、日本手話の言語運用能力の4つの要素(文法的能力、社会言語的能力、談話的能力、方略的能力)をバランス良く兼ね備えることを目標とし、手話通訳士、各都道府県登録手話通訳者の資格取得を目指すことができるようにプログラムを組んでいます。その中で取り入れているのが、音声言語の通訳訓練法である、ディクテーション、シャドーイング、リプロダクション、サマライジング、クイックレスポンス、サイト・トランスレーションなどを応用した手話通訳演習です。受講生の日本手話の学習進度と、通訳の作業プロセスにおける課題を複合的に評価しながら、1人1人に合った訓練法を提案しています。

【特色4】日本手話ネイティブのろう者教員と手話通訳資格を有する聴者教員の協働による指導

群馬大学では、日本手話の習得から高度な手話通訳の訓練まで、すべての学習段階で日本手話ネイティブの表出・訳出表現をモデルとしています。特に授業で素材として扱う手話通訳の訳出や手話スピーチの表現においては、日本手話を第一言語とするろう者教員、日本語を第一言語とする聴者教員が協働し、日本手話と日本語の言語社会文化的観点も含めたモデル表現の検討に多くの時間を割いています。

そして、教員スタッフ自身が、聞こえる/聞こえないに関わらず、ろう文化と聴文化のはざまで、異文化ギャップやコンフリクトを日々体験し、協働へと昇華させていくことを繰り返しています。この中で、日本手話と日本語の言語表現の違い、ろう者と聴者のものごとの受け止め方や考え方の違いに対する気づきを深め、ただ手話ができるだけではない、ろう者を理解できる支援者としての人材育成の指導に活かしています。

【特色5】高等教育段階にある成人の学習者像に基づいたカリキュラム設定

高等教育の段階から日本手話を学び始めようとするみなさんは、すでに日本語を母語として獲得し、また英語等を第二言語として学習してきた経験を持っているというアドバンテージがあります。群馬大学では、これを最大限に活かし、母語(日本語)で身につけた概念や言語表現を、第二言語(日本手話)ではどのような言語形式・表現で表すのか(言語規則)を分析的に学習するスタイルをとっています。また、青年・成人期の日本手話学習者は、母語でさまざまな事象や知識、心のひだを語れる言語運用力を有しています。そのため、できるだけ早期に言語規則を知識として一通り学習し、平易な文や会話だけでなく、母語で語るような高度な内容を練習や実践で取り扱うようにして、新しい言語習得に対するモチベーションを高めるようにしています。

【特色6】学習者の分析とカリキュラム・マネジメント

日本手話学習者にとってCL(Classifier:類辞)やRS(Referential Shift:レファレンシャル・シフト)の習得が難しいことはよく知られていますが、日本手話のさまざまな言語規則について、学習者がどのような順序で習得していくのか(習得しやすい/しにくい文法項目は何か)は、よくわかっていません。そのため、群馬大学の手話教育では、日本手話学習者の手話表現における誤りを、「その時点における学習者の習得状態を映し出す鏡」であると捉え、授業内外で学習者が表出する手話表現の誤りを丁寧に分析し把握するようにしています。そして、なぜその文法項目や表現が適切に使われないのか、第二言語習得理論に基づき、その原因に対する仮説を立てて、原因仮説に応じた指導方法/内容を、次の授業に反映させていくというPDCAサイクルをとっています。

また、日本手話や手話通訳のスキルが無理なく高められるように、授業当日の内容についてステップをふんでいくと誰にでもできるように設計された反転学習を宿題に取り入れています。

【特色7】効果的なオンライン授業の開発

コロナ禍により、高等教育機関では2020年度春から一気に授業のオンライン化が進みました。私たちは、「学びの質は落とさない」を合言葉に、立体視ができない二次元映像の弱点をカバーする教材や、鮮明で途切れのない手話モデル映像、詳細に記された資料の視聴手段を確保するとともに、授業では、第二言語学習に不可欠なアクティブラーニングや演習・実技を効果的に行えるように、手話の授業に最適化したWeb会議ツールの使用方法を開発してきました。これからも私たちは、「オンラインだからこそ、より深く日本手話が身についた」と言っていただけることを目指して開発を続けていきます。


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