ご挨拶
日本財団助成事業プロジェクトリーダー金澤 貴之
2017年度より国立大学法人群馬大学では、群馬県が制定した手話言語条例への学術機関としての貢献として、日本財団助成による群馬県との共催事業「学術手話通訳に対応した通訳者の養成」(2019年度より「学術手話通訳に対応した専門支援者の養成」)を実施いたしました。これは、2つの目的によって成り立ちます。1点目は、大学生の養成です。すなわち、1年次に基本的な日本手話を習得し、3年次までに手話通訳養成カリキュラムを修了し、その上で4年次にはろう重複障害児者への支援技術を含む、特別支援学校教員等に必要な手話等のコミュニケーションスキルを習得することで、卒業までに高度な手話スキルを有する専門支援者として社会に送り出すというものです。そして2点目は、県内の手話通訳者向けに、高等教育機関での授業や学会発表等で求められる「学術手話通訳」に関する研修を実施するというものです。
群馬県は平成27年3月に全国の都道府県で3番目に手話言語条例を制定し、かつ、同年12月に前橋市でも同条例が制定されたことで、全国で初めて県と市の双方で同条例を制定した県となりました。さらには令和3年4月現在、16ヶ所の市町村で同条例が制定され、全国屈指の手話言語条例制定県となっております。県条例においては聴覚障害児を対象とする学校における乳幼児期からの手話環境の整備等が記され、市町村条例においても学校における手話による支援が記されている自治体もあります。「手話先進県」の群馬県として、行政と学術機関とが一体となり、手話通訳スキルを身につけた専門支援者を県内に広く輩出していくとともに、全国のモデルとして「群馬方式」を広く情報発信していくべく、本事業を推進してまいりました。
そして2020年度末には4年目を終え、第一期生を社会に送り出すことができました(手話通訳者養成カリキュラム修了者34名、群馬県登録手話通訳者1名、盲ろう者向け通訳・介助者養成カリキュラム修了者6名)。加えて、2020年度はコロナ禍に見舞われたこともあり、これまでの授業をすべてオンラインに最適化させることができました。これにより、教室に集まらずとも、手話等を学べる環境も整いました。
現在、全国的な手話通訳人材の不足、電話リレーサービスの公共インフラ化、そして高等教育機関における聴覚障害学生への手話通訳ニーズへの対応の不十分さといった課題が山積しており、「若年層を対象とした手話通訳者養成」を真剣に考えていかなければ、高度職業人としての聴覚障害者の社会参加が大きく阻まれてしまう現実に直面しています。そのためには、高等教育機関で手話通訳者を養成できる体制を確立し、全国でその教育を受けられるようあらゆる環境を整備していくことが必要であろうと考えます。
そこで2021年度からは、これまでの4年間の事業をさらに発展させるべく、日本財団助成事業「聴覚障害に関わる支援人材育成を目的とした遠隔手話教育システムの構築」に着手しました。本事業の最終目標は、高度なスキルを持った手話通訳者の不足や、聴覚障害関連専門職の手話スキルの問題を解決すべく、手話教育研究拠点の連合体を形成し、遠隔ベースの手話教育システムを確立することにあります。「手話のチカラを群馬から」をキャッチコピーに、これまで進めてきた事業が花開いていき、全国の手話通訳養成、手話に関わる専門支援者養成の質向上に寄与できることを願っております。
皆様方からのご指導、ご鞭撻、そしてご支援のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。