学部生の頃、教育実習で当時東京で唯一手話を幼児期から用いていたろう学校に配属されたことをきっかけに、「手話を覚えなくてもろう学校の教員になれる」という大学での教育のあり方に疑問を感じ、「なぜ、ろう学校で手話が使われてこなかったのか?」という疑問を持って、ろう教育の社会学的研究に取り組み始めました。ろう学校での手話の位置づけについて、修士論文のテーマとして取り組む一方で、初めて出会った同年代のろうの大学院生から、「ろう教育の研究をしているのに、手話もできないの?」と怒られつつ、ろうの方々とのつきあいの中で、手話を学んでいきました。
その後、聴覚障害のある学生が群馬大学教育学部に入学したこと、そしてその翌年には手話通訳を求めるろう学生が入学したことで、大学としてろう学生の情報保障にどう応えるか、特に手話通訳ニーズにどう応えるかが、自分にとってライフワークの1つとなっていきました。そして1つ1つの課題をクリアしつつたどり着いた答は、大学がろう学生にとって真にインクルーシブな場となるためには、究極的には、プロに授業の手話通訳をお願いするだけではなく、大学全体に手話が広がり、共に学ぶ学生たちみんなが手話で話せるような環境を実現させなければならない、ということです。
群馬大学に手話の花が咲き、それが広がっていくことを、ぜひみなさま、暖かく見守っていただき、そして応援していただけたらと願っております。
PROFILE
東京学芸大学を卒業、同大学院修士課程を修了し、筑波大学大学院博士課程を中退。筑波大学文部技官、助手を経て、2000年4月から、群馬大学教育学部障害児教育講座に講師として着任。現在、同大学教授。「聾教育における手話の導入過程に関する一研究」で2013年3月博士(教育学)取得。以後、群馬県手話言語条例(案)研究会委員(座長代理)(2014年度)、前橋市手話言語条例制定研究会アドバイザー、同意見交換会委員(2015年度)、群馬県手話施策推進協議会委員(副会長)(2015年度~)等、群馬県内外の自治体の手話言語に関する施策推進に大きく寄与。日本高等教育聴覚障害学生支援ネットワーク(PEPNet-Japan)設立時の2004年度から運営委員として、全国の聴覚障害学生支援の体制整備に尽力。
主な著書
編著『聾教育の脱構築』(明石書店、2001年)
編著『一歩進んだ聴覚障害学生支援──組織で支える』(生活書院、2010年)
単著『手話の社会学──教育現場への手話導入における当事者性をめぐって』(生活書院、 2013年)